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【現代版『戦艦大和ノ最期』?】『アルキメデスの大戦』 感想/エンタメとしての大艦巨砲主義VS航空主兵論

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文章:蒼崎青太郎(twitter:@seitaro_aozaki)

『ドラゴン桜』でお馴染みの三田紀房原作の漫画『アルキメデスの大戦』が、『永遠の0』『海賊と呼ばれた男』の山崎貴監督により実写映画化されました。

新たな戦艦大和映画の誕生です。

※ネタバレを含みます。

作品紹介

昭和8年(1933年)、第2次世界大戦開戦前の日本。日本帝国海軍の上層部は世界に威厳を示すための超大型戦艦大和の建造に意欲を見せるが、海軍少将の山本五十六は今後の海戦には航空母艦の方が必要だと主張する。進言を無視する軍上層部の動きに危険を感じた山本は、天才数学者・櫂直(菅田将暉)を軍に招き入れる。その狙いは、彼の卓越した数学的能力をもって大和建造にかかる高額の費用を試算し、計画の裏でうごめく軍部の陰謀を暴くことだった。

VFXで再現される坊ノ岬沖海戦

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本作の冒頭の約5〜6分程は、戦艦大和が沈没した昭和20年4月7日の坊ノ岬沖海戦の戦闘シーンから始まります。

沖縄に展開中の米空母より飛び立ったTBFアヴェンジャーの編隊が増槽タンクを捨て、大和にMk13魚雷を命中させるべく襲いかかる。それに三式弾、高角砲、機銃で応戦する大和。そして大和の直上から急降下爆撃を仕掛けるSB2Cヘルダイバー。

これらが山崎監督によるVFXで見事に再現されていました。『永遠の0』でのVFXも中々に凄かったとは思いますが、飛行機のツヤ感などがそれを凌ぐ仕上がりになっていたと思います。

そして25mm三連装機銃の実物大の複製を使ったシーンも、実物大の大和を再現したロケセットで撮影された2005年の映画『男たちの大和』にも全く引けを取らない仕上がりでありました。

大和艦上は乗組員の腕や足が吹き飛んだ死体が散らばり地獄絵図そのもの。そして左に傾きながら転覆し、大爆発を起こして船体が真っ二つになりながら海底へと沈んでいく大和・・・

VFXと実物大の複製で再現された戦闘はまさに圧巻でした。

この戦闘シーンで一番僕が印象に残っているのが、撃墜した米軍機から落下傘で脱出した搭乗員を、カタリナ飛行艇が戦闘の真っ最中に直ぐに救助にくるシーン。何だか堪らない思いがしてしまいました・・・

本作における戦闘シーンはこの冒頭のみですが、僕はこの5分程度のシーンの為だけでも1800円を払う価値は十分にあったと思います。

エンタメとしての大艦巨砲主義VS航空主兵論

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本作は戦艦大和の建造を止めるべく、山本五十六が数学の天才である櫂直を海軍に招き入れ、数学を使って大和建造計画にある問題を暴くという物語です。

なぜ大和建造を止めようとするのか。それは今後海戦の主役は戦艦ではなく、航空機が主役になる時代が到来すると予測される為に、巨大な戦艦ではなく航空母艦を建造すべきであるということから。

大和よりも空母を建造すべきだったという意見は、現在まで色んなところで語られています。実際に大東亜戦争は制空権をいかにして確保するのかが重要な戦争でしたし、大和は戦艦としての戦果をほとんど上げることがないまま、東シナ海の海底に沈みました。

しかしこの大艦巨砲主義の流れを止めることは出来たのではないか?という着想を基に、フィクションとして、エンターテイメントとして非常に面白い作品となっています。

変人で数学の天才である櫂直が、数学の力を使って大和建造を阻止すべく奔走する・・・

大艦巨砲主義VS航空主兵論が、戦争に詳しくない人でも面白く楽しめるエンタメとして描かれていました。

敗れて目覚める?

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※ここからはネタバレになりますのでご注意ください。

数学を使って、大和建造案の見積金額の不正を暴き、致命的な欠陥を暴き出した櫂でしたが、結局最終的には敵対していた平山造船中将へ大和建造の為に力を貸してしまい大和は建造されてしまいます。

櫂は例え大和が建造中止になったとしても日米開戦は避けられないことを悟ります。櫂も平山も米国との国力差から日本が必敗することは理解しています。
平山曰く、ならば不沈艦と謳われる大和を建造し、敵に沈められることによって日本人を目覚めさせようというのです。

これは吉田満の『戦艦大和ノ最期』で有名な臼淵磐大尉の言葉と類似しています。
以下引用します。

「進歩のない者は決して勝たない 負けて目覚める事が最上の道だ 日本は進歩という事を軽んじ過ぎた 私的な潔癖や徳義に拘って、本当の進歩を忘れてきた 敗れて目覚める、それ以外にどうして日本が救われるか 今目覚めずしていつ救われるか 俺達はその先導になるのだ。 日本の新生に先駆けて散る。まさに本望じゃあないか」

まさにこれと同じような理由で開戦前から大和を作る決意をするわけです(この言葉は創作の可能性が高いと言われています)。

大和の建造の理由をこういう形で持って行くのかぁと感心しました。

竣工した大和は連合艦隊の旗艦となり、連合艦隊司令長官となった山本五十六が乗船してくる。その甲板上には敬礼で迎え入れる櫂がいました。

そして櫂は夕焼けの沖に浮かぶ大和を見て「この船は日本そのものだよ」と言って涙を流し終劇。

観客に対して大和って一体何だったんだろうか?これは今の日本にも通じるところがあるのではないか?というような問い掛けをしながらの結末は非常に良かったと思います。

この手の作品では多くが「戦争は良くない」だとか「平和が大切云々」と言った陳腐なセリフで終わって行きますが、本作はそれがなく、観客に問いを投げかける形で終わる。

エンタメ映画として、反戦映画として非常に優れた映画でございました。


筆者プロフィール

蒼崎青太郎

1993年12月25日、福岡県福岡市生まれ。カルチャーマガジン『蒼青堂』主宰。大学卒業後の2016年4月に新卒で鉄鋼系商社に入社。営業として鉄工所やゼネコンへ鋼材や建築資材を売り歩くも、少し捻くれた性格からか会社員として働くことに限界を感じ、2019年6月末で退職。そして現在に至る。
趣味はアニメ鑑賞、映画鑑賞、読書、模型作りなど。二次元美少女と日本軍の飛行機が好き。オタク。
名前の蒼崎青太郎は本名ではなく、TYPE-MOONのノベルゲーム『魔法使いの夜』に登場する蒼崎青子が由来。
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